脳神経外科的手術-1 |
手術の目的
パーキンソン病に対する手術目的は2つあります。
1症状を軽減するため
2薬物の量を減らすため
ドパミンは神経興奮を抑える働きをしますので、ドパミンが不足するということは「押さえが効かなくなった部分が異常に興奮してしまう」ということになります。この興奮した部分(脳の中にある核)を押さえつけるために、当初はその核を破壊してしまう手術がされていました。現在も行われることもありますが主な手術方法ではありません。壊していた核を高頻度(高い周波数)で刺激しても破壊と同じような効果があることがわかり、現在は破壊手術よりも高頻度刺激手術が多く行われています。これが深部脳刺激手術です。症状軽減が多く期待できるのは、振るえと固縮、そして薬の副作用のジスキネジアです。
薬物、特にドパミンを補うドーパ剤の内服が5〜10年以上の長期に及びますと、ドパミン神経終末の変性が進行したり、ドパミン受容体というドパミンが結合する部位の変化によって新たな運動障害や精神症状が合併してきます。体をねじるような、落ち着きのないような付随意運動であるジスキネジア、薬の効果が切れてしまうと症状が顕著に出てしまうオフ現象、そして幻覚・せん妄といった精神症状は元々のパーキンソン病の症状以上に耐え難い場合があります。こういった薬の副作用も手術と薬の調節によって改善が期待できます。
しかし手術はパーキンソン病を完治させるものではありません。またパーキンソン病であれば誰にでも効果が期待できるというわけではありません。患者さんそれぞれに関して、経過・症状を十分に理解すること、薬物治療の限界を知ること、できれば今後の機能予後を推察することが非常に重要になります。
パーキンソン病に対する定位脳手術
パーキンソン病に対する治療の基本は薬療法ですが、多彩な症状の中で振戦は薬が効きにくく、振戦が著名な場合には手術治療を考慮します。また長期の薬物療法の結果生じるwearing-off現象やon-off現象、そして薬の副作用で生じるジスキネジアや精神症状などを改善する目的でも手術を行います。手術を行うタイミングは個々の患者さんによって異なり一定の法則はありませんが、基本的に薬物療法の有効性が確認されている患者さんで、
・ 日常生活が著しく不自由になってきた時
・ 薬の副作用のために、薬を減量しなくてはならない時
・ wearing-off現象(レボドパによる症状改善効果の持続時間が短縮・変動する現象で、レボドパの血中濃度に依存しており、血中濃度が低下すると症状悪化off相、血中濃度が高いと症状が改善するon相がある)やon-off現象(薬の服用と関係なく症状が悪化したり、新たに内服しなくても症状が良くなる現象)が顕著になった時が手術をする目安の時期と言えます。レボドパ長期内服治療によるwearing-off現象やon-off現象は、内服開始5年目位から40〜60%の頻度で出現し、これらを総称してmotor fluctuationsと呼びます。このmotor fluctuationsが顕著になる発症(治療後)5年目あたりが手術を行う時期と考えても良いかも知れません。
厚生労働省班会議「パーキンソン病に対する脳外科的手術療法の適応基準」というものがあります。これには3つのステップがあり、手術適応かどうかはステップIからIIIまでの手順を経て決定されます。ステップIIとIIIは手術を行う施設や術式に関連するものですから省略して、適応基準のステップIのみ簡単に記しておきます。
ステップI |
適応基準(除外基準を含む) |
L-dopaに対するはっきりした効果が認められ、効果の程度は問わないが効果が術前まで持続していること。
- パーキンソン病に対する薬物療法が十分行われているもの。
- 日常生活を困難にする程度のパーキンソン病による運動障害、薬物療法による運動障害の合併症(ジスキネジア)を有するもの。
- 全身状態が良好であること。(重篤な全身合併症があるものは除外)
- 知能が正常であること。(重篤な痴呆がある場合は除外)
- 情動的に安定していること。(著しい精神症状を呈する場合は除外)
- 脳の画像で著明な脳萎縮のないもの。
- 本人の同意が得られること。
▼ ▼ |